株式会社KADOKAWA:クリエイターから消費者までをダイレクトに繋ぐ DX 戦略の要として Google Workspace を活用
Google Cloud Japan Team
出版に留まらず、映画、アニメ、ゲーム、グッズ、動画コミュニティー サービスなど幅広くコンテンツ ビジネスを展開する KADOKAWA グループが、2019 年 3 月、全社的に Google Workspace*(旧称 G Suite)を導入した。2000 年代半ばのガラケー全盛期から他社に先駆けるかたちでデジタルシフトに取り組んできた同社が、その DX(デジタル トランスフォーメーション)戦略において、Google Workspace をどのように活用しているのか。その導入・活用の立役者に聞く。
Google カレンダーがコミュニケーションのハブになる
KADOKAWA グループと言えば、出版業界の中でも DX を他社に先駆けて積極的に推進してきた企業という印象が強い。しかし、その働き方、社内システムに関しては必ずしもデジタル化が浸透していたわけではなかったと、同社 DX 戦略アーキテクト局長にして、グループの IT 関連戦略を一手に担う子会社 KADOKAWA Connected の代表取締役社長も務める各務茂雄氏は言う。
「私が KADOKAWA グループに加わった 2018 年 10 月当時は、社内外のコミュニケーションにまだアナログ的なところがかなり残っていて、グループ内、部署内のやり取りなどがサイロ化(分断化)しやすい状況になっていました。私の仕事は、デジタル技術を駆使していろいろなものがものすごいスピードで生み出されていく DX の時代に相応しい、新しいコミュニケーションの仕組みを設計すること。その第一歩として取り組んだのが、Google Workspace の導入です。」(各務氏)
ここで各務氏がとりわけ重視したのが Google カレンダーだ。KADOKAWA ではそれまで国内大手グループウェアを利用していたが、カレンダーに相当する機能は、各人が自分の予定をメモする備忘録的にしか使われておらず、他者との連携などがされていないことが多かった。
「入社後、まず 3 か月かけてグループ内、約 6,000 名の予定管理を Google カレンダーに切り換えました。そして、これをコミュニケーションのハブとして、オンライン会議の予約などをワンストップで行えるようにしています。まずはここからグループのコミュニケーション改革を始めることにしました。」(各務氏)
Google ドライブ、Google Meet でフリーアドレス化を推進
そしてもう 1 つ、各務氏が「導入の決め手になった」と語るのが Google ドライブの存在だ。多様なコンテンツを保有し、それを商品、サービスとして提供する KADOKAWA グループには、データを安全に管理しつつ、フレキシブルに活用したいというニーズがあった。
「現在は、社内の基準に照らし個人情報など強固なセキュリティを求められるもの、クラウドに置くには適さない極端にサイズの大きなデータ以外は、Google ドライブに集約する方向で進めています。Google Workspace で気に入っているのは、Google ドキュメントで 他社形式のファイルを直接見たり、編集できたりもすること、そして Google ドライブ ファイルストリームによって、PC に保存されているデータと同じ感覚で扱えること。これらによって他のクラウド ストレージと比べて、移行の敷居がだいぶ低くなったと感じています。」(各務氏)
また、2019 年中頃から段階的に進んでいる、ところざわサクラタウン(2020 年 8 月 1 日プレオープン、11 月 6 日グランドオープン予定)を中心とした本社機能再編に伴うフリーアドレス化に際しては Google Meet が活躍。新社屋には 30 台の Google Meet ハードウェアが設置され、PC を介する事なく、即座にオンライン会議が行えるようにしている。
「参加者が PC を持ち込んでオンライン会議をする仕組みにすると、始めるまでのセッティングに時間を取られるなど、少なくない時間のロスが発生します。その点、専用の Google Meet ハードウェアなら、ボタンを押すだけですぐに会議がスタートできます。今回はそのスピード感を重視しました。」(各務氏)
「カスタマー サクセス」という観点を導入し、マンガで活用を啓蒙
社内情報システムの刷新には、必ず「反対勢力」が現れる。予定管理やファイル ストレージなど、影響範囲の大きなものについてはなおさらだ。こうした、これまでのやり方を変えたくない社員をどのように説得していったのか、各務氏はそこに魔法はないと前置きしつつ、「カスタマー サクセス」チームの立ち上げが功を奏したのだろうと語る。しかし、本来カスタマー サクセスとは、企業が顧客の成功をサポートする仕組み、部署のはず。これはどういうことなのだろうか?
「私たちにとって、社内の利用者はある意味でお客さま。情報システム部が、ガバナンス強化やコスト低減などの観点から強権的に機能を押しつけるというやり方はもう古いと考えています。これからは情報システムをサービスと考え、利用者(従業員)が気持ちよく使える仕組みを提供し、それによって信頼関係を築いていくことが大事。私はこれを『信頼貯金』と呼んでいます(笑)。もちろん、一定の緊張感は必要ですし、セキュリティなどの理由から切り換えなければならないものや、カレンダーのように皆が一斉に使わなければ意味がないものについては強制もするのですが、利用者の側が積極的に使いたいと思うような提案や工夫を怠ってはいけません。」(各務氏)
そんなカスタマー サクセスチームの取り組みとして、特に印象的で、KADOKAWA らしいと言えるのが、4 コママンガを使った Google Workspace の使い方啓蒙だろう。いわゆる FAQ 的なものやおすすめの利用法などを、4 コママンガの形に面白おかしくまとめ、それを社内 SNS に投稿したり、小冊子化して配布したりすることで、社内の知識レベルを底上げしていったのだ。その本数は 2020 年夏時点で 100 本以上。マンガ好きが多いという KADOKAWA グループだけに、その効果は絶大だったと言う。
「やはり文字だと読んでもらえないんですよね(笑)。ところが、それをマンガにすると、なるほどそうかとロジカルに理解してくれるようになるんです。結果として、2019 年の秋くらいには当初目的としていた、役員を中心とした社内のキーパーソンが使いこなすような状況に持っていくことができました。そこからグループ全体に徐々に浸透していって、1 月〜2 月には皆が Google カレンダー ベースで仕事をするという形になっています。」(各務氏)
Google Workspace は KADOKAWA の DX 戦略のど真ん中にある
こうした KADOKAWA グループの Google Workspace 活用は、今年初頭からの COVID-19 流行においても奏功。移転準備のピークである 4~5 月に緊急事態宣言が発令されたにも関わらず、ところざわサクラタウンを 8 月 1 日にプレオープンできたのは、Google ドキュメントを駆使した進捗管理などがスムーズに進んだからだと各務氏は評価する。また、Google Meet によるオンライン会議など、リモートワークの仕組みを積極的に活用することで、通常業務への影響も 最低限に抑えることができた。
「特に Google Meet を使ったオンライン会議は、社内だけでなく、社外のパートナーや作家との連絡に大いに役立ちました。2020 年 6 月のオンライン会議件数は半年前と比べ、なんと 30 倍にも増加。今後もこの増加した件数に近い水準が維持されていくでしょう。DX の本質は、ものを作る人から、消費する人までのコミュニケーションを最適化すると言うこと。今後も、そこをきちんと設計していかねばなりません。Google Workspace はそのど真ん中にあるプロダクトであると考えています。」(各務氏)
もちろん、各務氏の率いる KADOKAWA グループのコミュニケーション改革は今後もさらに続いていく。
「Google Workspace の枠を越えたより大きなビジョンでは、クリエイターから消費者までをダイレクトにつないでいきたいと考えています。たとえばグループ内の『ニコニコ動画』などは、まさにクリエイターとユーザーが手を取り合ってもの作りをしていますよね。そういったものも全部含めたプラットフォームを KADOKAWA グループ内に作っていきたいです。」(各務氏)
株式会社KADOKAWA 執行役員 グループ経営企画本部 DX戦略アーキテクト局長
株式会社KADOKAWA Connected 代表取締役社長
各務 茂雄 氏
1945 年、角川源義が創業した出版社・角川書店を祖とする企業グループ。現在は出版事業のほか、映像事業、ゲーム事業、ウェブサービス事業など、「出版」の枠を越えた幅広い分野に携わる。2020 年には埼玉県所沢市に文化複合施設ところざわサクラタウンを開業予定(2020 年 11 月 6 日グランドオープン予定)。従業員数は 2020 年 3 月 31 日時点で 6,684 名(連結)。
*2020 年 10 月、G Suite は新たに Google Workspace としてブランドを刷新しました。
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