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顧客事例

京都桂病院 : Google Workspace と AppSheet を活用し、医療現場が業務改革を自ら推進

2025年12月10日
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Google Cloud Japan Team

京都市の西部・北部医療圏における基幹病院である京都桂病院。同院では 2024 年 4 月、薬剤師や臨床工学技士など、医療現場を深く知るメンバーが中心となって情報企画室を立ち上げ、院内の DX を推進しています。その一環として、同年 9 月に Google Workspace を導入。紙ベースの作業が主流だった業務環境は、Google Workspace と AppSheet の活用によって劇的に変化しています。その改革を主導する 3 名の担当者に話を伺いました。

利用しているサービス: 
Google Workspace, AppSheet, Google Chat, Google ドライブ, Google スプレッドシートSheets, Google ドキュメント, Gmail

利用しているソリューション:
Digital Transformation, Application Modernization

医療現場を知る臨床工学技士と薬剤師が、院内 DX の推進役に

京都府内で 7 つしかない 500 床以上の大規模病院の一つとして、京都市西部の地域医療を支える京都桂病院。同院では、多くの医療機関と同様に IT 化や DX の推進が課題となっていました。医療マネジメント部 部長の野﨑 歩氏は、当時の状況について次のように述べます。

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「当院は外部委託により電子カルテを導入していましたが、それだけでは契約範囲外の業務改善や新しい要望には応えられず、現場のニーズとの間に隔たりが生じてしまいます。これからは自分たちで考え、開拓し、効率を上げていく必要がある。そう考え、内製化のための部署を立ち上げたいと前院長に話しました。」

こうして 2024 年 4 月に設立したのが「情報企画室」です。特徴的だったのは、その人員構成でした。情報企画室 室長の加納 和哉氏は臨床工学技士、塩飽 英二氏は薬剤師と、IT 専門職ではなく、医療現場を深く理解する臨床スタッフが改革の担い手として集まりました。そんな彼らの最初のミッションは、老朽化したメールシステムの刷新です。担当した加納氏は、多様な職種が協働し、IT スキルもさまざまな病院特有の背景があるからこそ、 Google Workspace を選択したと振り返ります。

「病院では看護師をはじめ、日常的に PC に触れない、IT に不慣れな職種が少なくありません。そのため、操作画面がシンプルであるという "とっつきやすさ" と、多くの職員がプライベートでも検索機能などをスマートフォンで使い慣れているという "普遍性" が Google Workspace 導入の決め手となりました。」

とはいえ、1,400 名を超えるスタッフへの導入は容易ではありませんでした。「全スタッフへの浸透は、想像以上に高い壁でした」と加納氏は明かします。

しかし同院には、医師や薬剤師、看護師といった職種間の風通しが良く、コミュニケーションが活発な文化が元々ありました。情報企画室はその強みを活かし、地道な「草の根活動」によって、 Google Workspace を院内に浸透させていきます。

「紙と FAX」からの脱却。Google Workspace が院内業務のスピードを変革

情報企画室の地道な活動により、当初の目的だったメールシステムの刷新は完了。さらにGoogle Workspace の活用、特に Google Chat を活用したチーム内のコミュニケーションや、Google ドライブによるファイル共有も約 1 年で院内に浸透しました。加納氏はその効果が、まず「紙」の削減となって現れたと語ります。

「導入から約 1 年で、紙の使用量は 160 万枚削減されました。Google Cloud 以外の取り組みは特にしていないので、純粋に Google Workspace 導入による影響だと考えています。」

紙の削減は、業務の効率化にも直結。その一つが、頻繁に行われていた「聞くだけ会議」の削減です。加納氏によると、会議の議題を Google ドライブで事前に共有し、Google Chat で議論する文化が定着したことで、変化が生まれました。

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「会議の開催回数が半分になった委員会もあります。以前は集まるだけでも、場所や時間が取られていましたが、そういった細かな無駄もかなり減らせています。」

Google ドライブ の検索機能も、現場の業務を変えています。手術室の膨大なマニュアル検索が瞬時に行えるようになったほか、Gmail の導入によって、以前のシステムでは困難だったメール本文の検索も瞬時に行えるようになり、情報アクセスの速度が向上したと加納氏は説明。また、Google スプレッドシートの「同時編集」機能も、院内の様々な業務を変革しました。特に新人看護師の評価業務では、アナログな集計作業が効率化されたと塩飽氏は語ります。

「新人看護師約 50 名に対して指導する、教育担当者や所属長など約 100 名が 3 年間かけて評価を記録するシートがありました。以前は全員が紙をファイリングしており、それを一人の教育担当看護師が集めて、全て手作業で転記・集計していました。これを Google スプレッドシートで一元化し、自動化したことで、担当看護師はボタン一つで集計できるようになり、転記ミスや膨大な労力が削減されました。」

Google スプレッドシートによる効率化は院外のパートナーとの連携にも及び、「入退院管理」業務を一新しました。以前は毎日約 50 名発生する退院患者の病室清掃の依頼を、各病棟が FAX で行っていました。加納氏は、「退院予定の変更」があるたびに FAX が飛び交い、外部の清掃委託業者が毎日 100 枚単位の紙を手入力で集計していた状況が、いかに改善されたかを明かしています。

「現在は、Google スプレッドシートを共有し、各病棟が一斉に同時編集で入力しています。清掃委託業者もそのシートを直接見て作業するようになりました。アナログなプロセスが一掃され、シンプルにやり取りができて便利です。」

「知的好奇心」から生まれた 25 個の AppSheet アプリが、現場の DX を実現

Google Workspace の導入が軌道に乗る中、情報企画室の塩飽氏は、さらなる業務効率化の可能性を模索し始めます。当初は Google スプレッドシートの自動化などを行う Google Apps Script を活用していましたが、現場の複雑な課題を解決する、より独自のソリューションを模索していたところ、ノーコードでアプリを開発できる AppSheet に着目しました。

塩飽氏はエンジニア経験がありませんでしたが、薬剤師としての課題意識と新しい技術への探究心から、様々な資料や Gemini などを活用して独力で開発手法を習得していきます。

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「AppSheet は、ノーコードで自分の思い描いたアプリを自由に開発できる点で、私にとって最適なツールだと思いました。まず、自身の薬剤師業務(シフト管理など)をアプリ化したところ、同僚の薬剤師から好評だったので、病院全体に展開できると確信し、いくつかのアプリ開発を進めました。」

こうして生まれたアプリは、約 1 年間で 25 個に及びます。薬剤部の在庫管理や医薬品情報の Q&A アプリといった専門的なものから、紙の伝票で行っていたメーカーやベンダーの「入退室管理」、事務系の「物品請求アプリ」まで、院内のあらゆる「面倒な作業」をデジタル化していきました。その効果は大きかったと塩飽氏は語ります。

「AppSheet の成果の一つに、職員の健康診断アプリがあります。以前は職員 1,400 人分の紙を印刷し、封筒に入れ、各所に手渡し、記入後に回収、また転記する…という作業を 4 人がかりで 1 週間かけて行っていました。この膨大な人件費が AppSheet によって大幅に削減できました。業務を楽にするというより、その部署の人が違うことができる時間を作り出せたことは、とても大きいと思います。」

現在、塩飽氏は災害発生時の職員安否確認などを含む「病院アプリ」の開発にも着手しており、運用に向けて準備を進めていると意気込みます。導入から 1 年、加納氏は Google Workspace が院内の業務基盤として「切っても切れない関係になった」と総括します。今後は電子カルテなどの診療業務と親和性を持って進めていく予定であり、「IT 専門の人材がいない医療機関への導入もおすすめです」と、Google Workspace に強い信頼を寄せました。

「IT の知識に自信がなくても、標準機能を使いこなすことは十分可能だと思います。その上で、院内の DX を成功させるには、興味を持って取り組んでくれるメンバーがいてこそという側面もあるので、導入を考えている医療機関の方には、そうした主体性のある人材が育つ環境づくりも必要不可欠だと感じています。」


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社会福祉法人 京都社会事業財団 京都桂病院
1955 年設立。京都府京都市西京区に位置し、545 床の病床数を有する地域の基幹病院である。"地域住民に信頼される心のこもった医療" を理念に掲げ、京都市西部・北部医療圏(約 70 万人)の急性期医療を担う。手術支援ロボット "ダ・ヴィンチ" の導入や、がんゲノム医療連携病院に指定されるなど、高度ながん医療の提供にも注力している。

インタビュイー(写真左から)
・医療マネジメント部 情報企画室(薬剤科兼務)主任 塩飽 英二 氏
・経営企画室 企画広報 髙松 意和 氏
・医療マネジメント部 部長 野﨑 歩 氏
・医療マネジメント部 情報企画室 室長 加納 和哉 氏

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