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顧客事例

マザーハウス: "Let me try first" で推進する Google Workspace と Gemini 活用

2025年12月2日
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Google Cloud Japan Team

「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という理念の下、バッグやジュエリーなどを展開する株式会社マザーハウス(以下、マザーハウス)。同社は 2012 年から Google Workspace を活用し、近年では Gemini、AppSheet、NotebookLM を全社的に導入。ICT チームが主導して、企画開発、財務経理、店舗運営といった多様な現場で、理念の実現を加速させる業務変革が始まっています。本記事では、その取り組みの最前線に立つ 3 名の担当者に話を伺いました。

利用しているサービス: 
Google Workspace, Gemini, AppSheet, NotebookLM, BigQuery, Looker Studio

利用しているソリューション:
Digital Transformation, Application Modernization

具体的なユースケース戦略が、Gemini 全社導入を加速

2012 年から Google Workspace を活用し、長年にわたり社内の情報基盤として Google のツールへ集約を進めてきたマザーハウス。2024 年、Gemini が本格的にリリースされると、同社は迅速に全社導入を決定します。

その直接的な決め手は、Gmail や Google ドキュメントといった既存のツールと、 Gemini がシームレスに連携できる点にありました。この導入と、その後の全社的な活用推進を力強く後押ししたのが、社内に根付く「MH 語(エムエイチご)」と呼ばれる、マザーハウスで働く全員が大切にしたい価値観でした。コミュニケーション デザイン部門 ICT チームの増田 康太郎氏は、その文化が導入を後押ししたと語ります。

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「マザーハウスには、みんなで大切にしたい価値観をあらわした "MH 語" というワード集があります。その一つに "Let me try first" という言葉があり、未知のものでもまずはトライしてみる、という文化が全社に浸透しています。Gemini の導入もその一つでした。仕様変更のリスクを恐れて塩漬けにするより、使いながら考えるスピード感が重要だと考えました。」

とはいえ、導入当初はテキストや画像の生成、データの分析、企画の壁打ちなど Gemini のカバー範囲が広すぎるゆえに、かえって利用イメージが湧きにくいという課題に直面。そこで、新しい技術を積極的に試す ICT チームがユースケースを模索することに。カスタマー サポート チームなどで「お客様のメール返信案をレビューしてもらう」といった具体的な実演ワークショップを行い、小さな成功体験を積み上げるアプローチを取りました。

全社展開にあたって定めたルールは、非常にシンプルだったと増田氏は話します。

「 "AI は絶対ではないため、意思決定は必ず自分で行う" 、 "重要情報を扱ってよいのは企業で契約している Gemini のみ” 。この 2 点だけを周知しました。AI はあくまでサポート役であり、相談相手。そのスタンスを明確にしています。」

Gemini が「パートナー」となり、企画開発から管理部門までの業務を変革

"Let me try first" の文化の下、Gemini は各部門で「パートナー」として急速に浸透しています。レザー製品の企画・商品開発を担当する田口 ちひろ氏の部門では、製造から販売まで一貫して行うビジネスモデル上、「お客様の声をいかに早く工場に届けるか」が常に重要です。これには膨大な顧客レビューの「分析」と集計に加え、その結果をバングラデシュの自社工場へ「共有」するコミュニケーションのハードルがありました。Gmail のサイドパネルに組み込まれた Gemini が、この「分析」と「共有」の両方のプロセスを効率化しています。

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「お客様の反応をダイレクトにものづくりへ活かし、追加生産の意思決定を迅速に行うため、売上データ(定量)とお客様の感想(定性)の両方を読み解く必要があり、日々時間をかけて行っていました。特にバングラデシュの自社工場とのコミュニケーションでは、時差や言語の壁がある中で、丁寧な表現やニュアンスを考えるのに時間がかかっていました。 Gemini 導入後は、レビューの分析と、Gmail 上での翻訳・メール作成を含む工場への共有にかかる時間が体感で 70% ほど削減され、その分、長期的な商品計画など付加価値の高い業務に時間を使えるようになりました。見込みがある商品に対する "次の打ち手" への意思決定が格段に早くなり、お客様の反応をダイレクトにものづくりに活かせるようにもなりました。」

また、日々のリサーチ業務においても Gemini は欠かせない存在になっていることを田口氏は明かします。

「社内勉強会のための資料作成のたたき台を作ってもらうこともあり、リサーチにかかる時間が大幅に短縮されました。」

一方、中途入社を経て現在は正社員 1 名を中心とした体制で財務経理を担当する井上 蘭氏の Gemini 活用法は、より切実な課題から始まっています。決算、財務、庶務まで幅広い業務を少数で担う中、前職では会計業務を専門としていなかった井上氏は、自身のスキルや経験不足に葛藤があったと語ります。

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「税務や法制度など専門的なリサーチが必要な際、Gemini は公的文書を参照し、論点を整理した上で回答をまとめてくれます。例えば、各法改正への対応など、何も準備せずに税理士さんと話せば 1 時間かかっていたところを、Gemini と壁打ちすることで論点が整理され、相談が非常にスムーズになりました。その結果、全社的なオペレーション整備など、優先度の高い業務により時間をかけることができ、スピード感を持った対応が可能になりました。」

この「壁打ち」は業務に留まりません。「経営陣・マネジメント層へのアプローチ前や外部との渉外前に、相談することもあります。Gemini は論拠を示して冷静に返してくれる、まさにマインド面も支えてくれる良き相談役です」と井上氏は語ります。さらに、「相談相手」としての活用は、定量的な効果にも表れています。

「集計やリサーチといった作業は Gemini で代替できる部分が多いと感じます。以前は 1 名の人員追加をしようと考えていましたが、チーム全体でも Gemini の活用が進んだことで、その 0.5〜1 人分の人員は不要になったと判断しています。」

そして増田氏は、各部門でもユニークな活用が生まれていることを説明してくれました。

「ある店舗の店長は、スタッフそれぞれの特性やコミュニケーションの癖を Gemini のカスタム指示(Gem)に入れ、指導方法を相談する "マネジメントの壁打ち相手" として活用。シフト制でスタッフと顔を合わせる時間が限られる中、1 回のコミュニケーションの質を高めるために役立っているそうです。さらに、マーケティング チームでは、ブランドが大切にしたい価値観を Gem に学習させ、SNS 投稿やメールマガジンのレビュー工数を大幅に削減することに成功しています。」

AppSheet と NotebookLM が解決する、エンジニア不要の「現場の課題」

Gemini 以外のツールの活用も進んでいます。ICT チームの増田氏は、社内にエンジニアがいない中、ニッチな現場の課題を解決するために AppSheet に着目しました。

「最も象徴的なのが、店舗前の "通行量カウント" です。以前は紙に "正の字" を書いて集計するという、極めてアナログな作業が全店舗で発生していました。」

増田氏はチームで AppSheet の開発手法を学び、タブレットから年代や性別を入力するとデータが BigQuery に直接送信されるアプリを開発。Looker Studio で可視化し、レポーティングできる体制を整えました。

「会社が成長するにつれて、バックオフィス部門の作業を 1 時間削減することももちろん大切ですが、それ以上に全店舗の作業を 5 分削減する方が、会社全体へのインパクトは大きい。AppSheet はそれを実現してくれました。」

現在は、さらに複雑な「修理受付」の業務プロセスを効率化するアプリの開発を AppSheet で着手しており、現場の DX を力強く推進しています。

さらに、IT や経理への社内 FAQ 対策として、 NotebookLM を活用し、マニュアルや過去の問い合わせ履歴を読み込ませた専用の チャット環境を社内で共有し、社員がいつでも自己解決できる環境を整えました。

「 "まず NotebookLM に聞いてね" と案内を徹底することで、簡単な質問は一次受けができています。最近では "NotebookLM に聞いた上で、ここがわからない" という、より具体的な質問が増え、問い合わせの質自体も上がってきました。」

同社は Jagu’e’r(Japan Google Cloud User Group)などのコミュニティも積極的に活用し、常に最新の情報をキャッチアップしています。増田氏は最後に、今後の展望についてこう締めくくりました。

「Google Cloud には、これからも私たちの期待を超えるスピードでの進化を続けてほしいと願っています。我々も "Let me try first" の精神でその進化を最大限に活用し、共に成長していきたいと考えています。」


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株式会社マザーハウス
「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念に掲げ、2006 年 3 月 9 日設立。バングラデシュをはじめ、ネパール、インドネシア、スリランカ、インド、ミャンマー、計 6 つの生産国で、その国ならではの素材と現地の職人技術を活かした「ものづくり」を行っている。バッグ、ジュエリー、アパレル、チョコレートといった多岐にわたる商品を取り扱い、2025 年 11 月現在、国内(50 店舗)に加え、アジア(台湾 5 店舗、シンガポール 3 店舗)でも直営店と EC サイトを運営。現在はアメリカの EC 運営に力を入れつつ、高品質なプロダクトを世界に届けることを通じて、途上国の可能性を世界に発信し続けている。

インタビュイー(写真左から)
・マザーハウス事業 MD 部門チーム チーフマネージャー 田口 ちひろ 氏
・コーポレート部門経理財務チーム リーダー 井上 蘭 氏
・コミュニケーション デザイン部門 ICT チーム グループ統括マネージャー 増田 康太郎 氏


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