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顧客事例

星野リゾート: Google Workspace と Gemini 活用が後押しするさらなる競争力向上と、唯一無二の「魅力造成」

2025年9月4日
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Google Cloud Japan Team

利用しているサービス:
Google Workspace, Google Workspace with Gemini 

「旅を楽しくする」を掲げ、国内・海外合わせて 73 施設を運営している星野リゾート。同社は早い時期から IT 化に注力。施設数、社員数の増加や事業規模の拡大といった環境の変化に対応すべく中長期の IT 戦略を推進しています。今回はその IT 戦略の内容と、Google の 生成 AI、Gemini の活用方法についてキーパーソン 3 名に話を伺いました。

コロナ禍を生き抜いた星野リゾートの IT 戦略と、時代の一歩先を見据えた 3 つの目標

オンライン予約システムや自動チェックイン機の導入、温泉の混雑状況を確認できるサービスの実用化にいたるまで、ホテル業界は大きく様変わりしてきました。しかし、スタッフの業務体制や顧客体験の向上などでは、IT 化や DX が遅れていると言われてきたのも事実です。そのような状況のなか、星野リゾートは比較的早い段階から IT 化に力を入れてきました。施設数が増え始めた 2000 年代初期からは、独自のオンライン予約システムの導入を積極的に進め、現在では、自社ウェブサイトでの予約率は平均で 70% にまで高まっています。

星野リゾートの情報システムグループ グループディレクター 久本 英司氏は、IT 化の取り組みが大きく転換したのは 2015 年頃だったと振り返ります。

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「当時、事業拡大についていけなくなっていた情報システム部門は事業の足枷とまで言われ、その状況を脱却するため、変化を前提とした 組織作り、基盤構築を目的とした IT 戦略を考えました。しかし、社内の信頼を失っていたためオフィシャルな計画としては承認されることはなく、経営者や事業部門の要望に応えながら水面下で徐々に少しずつ新たな取り組みを進めてきました。業務データとプロセスをクラウドに移行すべく Google Workspace の導入を進めたのも、変化に強いコミュニケーション / コラボレーション基盤を手に入れるためでした。」

この改革の中心にあったのが「クラウド化」への強い意志でした。久本氏は続けます。

「業務基盤は、いずれ必ずクラウドになると思っていました。たしかに当時のクラウドは、運用コストも人的コストも従来の方法より嵩み、評価が定まっていませんでした。それでも、急激に重要度を増す個人情報を徹底的に守り、星野リゾートがイノベーションを実現するには、クラウドでの働きにシフトする必要があると主張し、経営陣に納得してもらいました。」

同時に情報システムグループでは、ノーコード ツールの導入やシステム開発のモデリングにも取り組み、将来につながるさまざまなスキルをスタッフが身につけられるような施策を、5 か年計画で 1 つずつ進めてきました。久本氏はその戦略的な意図を次のように明かします。

「期限を 5 年間と定めたのは、デジタル ディスラプターと呼ばれる業界外からの破壊者の登場など、観光産業にも大きな変革が数年先には起こるだろうと予測したためです。大きな変化の渦に飲み込まれそうになった際、虎視眈々と備えた IT 能力で会社の危機を乗り越えられれば、社内的な評価も一変するのではないかと考えました。」

この取り組みは思いもしない形で結実します。コロナ禍により各社が対応に苦慮するなか、星野リゾートは外部に依存せずに独自のマーケティングや集客戦略を展開。さらに IT 化を進め、厳しい期間を乗り切ることに成功したのです。

時代の一歩先を見据えた IT 化や DX の取り組みは、その後も続いています。現在、星野リゾートが IT 戦略の軸としている目標は 3 つ。1 つ目は、予約システムと統合して高度なマーケティング活動を実践し、顧客満足度と生産性を両立させる新しいコンセプトのホテル運営システムの開発です。2 つ目はセキュリティ基盤の構築です。顧客情報を徹底的に守りつつ、スタッフがデータなどを活用し、イノベーションを展開できる環境の整備を目指しています。3 つ目は人材育成基盤のひとつとしての IT 人材化の推進です。久本氏は、IT 人材化の基盤づくりについてこう説明します。

「IT 部門の人員は日本国内では一定の規模に達していますが、海外の競合他社に比べれば、人材数や予算規模は限られています。このギャップを埋めるには、星野リゾートのフラットな組織文化とマルチタスクな働き方を融合させるべきだと考えました。情報システムの人員が 60 人しかいなくても、全社員 8,000 人が IT スキルを高めて最新技術を駆使し、業務改革やマーケティングのアイデアを出せれば大きな力になります。それを実現するために、星野リゾートの競争力を高められる IT 人材育成基盤を作りたいと考えています。」

発想を広げる Gemini、絞り込むのは人間。OMO5金沢片町に見る魅力造成の取り組み

IT 人材育成基盤の構築は、さまざまな業務への波及効果が期待されています。その 1 つとして挙げられるのが「魅力造成」の分野です。現場業務に長年携わり、現在、情報システムグループ ITサービスマネジメントユニットで全社で利用するシステムの導入運用保守・IT人材育成基盤を担当している佐藤 拓也氏は、「魅力造成」業務の重要性を次のように語ります。

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「星野リゾートでは、フロント業務、清掃業務、料飲サービスといった現場を担うサービスチームのスタッフが、施設の魅力を高めるための『魅力造成』という活動も行っています。顧客満足度調査で得られるデータを分析し、施設の特徴やトレンドを踏まえた上で、ホテルの魅力を高めるコンテンツを考え、それをプレスリリースとして発表していきます。この際には文章作成、写真撮影のディレクション、メディアの取材対応、そして宿泊客にサービスとして提供するまで、すべて施設のメンバーが行うので、すごくやりがいがある反面、効率化の難しさを痛感していました。」

そこで星野リゾートでは、Google Workspace に Gemini が搭載されたのを機に生成 AI を導入。「魅力造成」の作業にも活用するようになりました。これは従来、Google Workspace を活用して蓄積してきたコンテキストやコンテンツをきちんと踏まえたうえで、生成 AI を活用する仕掛けづくりをすることが重要だという判断に基づくものです。

佐藤氏は、Gemini を業務フローのどこに活用すると効果的なのか、どう使うとスタッフの負担が軽減できるかという観点からユースケースを整理してティップスとしてまとめ、「魅力造成」に携わるスタッフにレクチャー。担当者は実際に Gemini を使って、企画立案からアイデア出し、文書作成、写真のイメージ共有などを行うようになりました。一方、Google Cloud の最新情報を Google Cloud エンジニアが紹介する「Google Cloud オフィスアワー」を利用してプロンプトの効果的な使い方を学ぶなど、Google Cloud チームのサポートを受けながら、社内の利用普及を促進していきました。

これらの取り組みが成果をあげ始めた例として、OMO5金沢片町 by 星野リゾートに生まれた新たな流れが挙げられます。同施設では、OMOブランドの大きな特徴は、地域の魅力を伝えるイベントや、ホテルのご近所をOMOレンジャーと呼ばれるスタッフが案内するガイドツアーです。同施設では、これらの企画をさらにブラッシュアップするために、Gemini を積極的に活用しています。広報担当の 堀 安優美氏は「Gemini は創造性を刺激してくれる」と語ります。

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「Gemini は、企画段階でのブレイン ストーミングや壁打ちの際に、固定概念にとらわれない斬新なアイデアを提供してくれます。通常、多くの時間を要する企画立ち上げ段階でのアイデア出しも、Gemini が支援してくれることで効率が格段に向上しました。優しい言葉でサポートしてくれる Gemini は、私達にとって最高の相談相手ですし、Gemini とのやり取りを通してアイデアが練られていくケースも多いですね。」

このような取り組みでは、予想をはるかに上回る成果が得られました。それまで 30 分かかっていた文章の校正は 5 分程度に短縮されるなど、「魅力造成」の業務で発生していた作業時間は約 30% 削減。現場からは「Gemini を使わなかったら思いつかなかった」という声も上がるなど、創造性の向上にも貢献しました。

また、Gemini によって業務改善のハードルも下がり、施設全体で、従来は難しいと感じていたことも Gemini を活用すればできるのではないか、という良い雰囲気が醸成されてきていると、堀氏は続けます。

「Gemini を活用すれば、例えば専門的なプログラミングの知識がなくとも、アプリケーションに必要なコードの指示・入力を誰もができるようになり、時間の短縮も期待できます。今までだったらプログラミングの本を買って、理解して、方法を学んで、やっと入力するというように工程がたくさんありましたが、『こんな仕組みにしたい』『コードを生成してください』と Gemini にプロンプトを入力して、返ってきたヒントを試していけば、それが業務改善に直結します。」

Gemini がもたらす業務効率化に大きく期待する一方で、堀氏は、最終的に重要になるのは「人の判断」だと語りました。

「たしかに Gemini の活用で『魅力造成』の作業は飛躍的に充実しましたが、最後の鍵を握るのはスタッフ全員の発想や判断力です。Gemini は想像していなかったところまでアイデアを広げてくれます。しかし回答をそのまま鵜呑みにするのではなく、提案してくれたアイデアの核となる価値を見極めて、現場で整えていく必要があります。私たちは『アイデアを広げるのは Gemini、絞るのは人間』と捉えて、Gemini を活用しています。」

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OMO5金沢片町スタッフ手作り POP で飾られた「ご近所マップ」(中央)と、ご近所を知り尽くした「OMOレンジャー」による宿泊客向け街歩きガイドツアー

テクノロジーで知識を継承、個人の多様性とスキルを高めながら独自の価値創造へ

星野リゾートでは、「魅力造成」以外の業務でも Gemini が積極的に活用されています。佐藤氏はその一例としてデータ分析を挙げました。

「顧客満足調査のデータ、宿泊客の OA(オープン アンサー)は大量で、定量・定性の分析に時間がかかっていましたが、簡単なプロンプトを入力するだけで Gemini が施設の課題、改善点を提示してくれるので、これまで見えなかった状況、課題も客観的に把握できるようになりました。また客観的なデータがあると、新たな施策のコンセンサスを社内で取る時も納得感が違います。従来、個人の経験や感覚に基づいて迷いながら下していた判断も、より合理的かつ迅速に決定できるようになったと感じています。」

佐藤氏は生成 AI が「正しく」活用されていることにも手応えを感じていました。

「業務に使用する際には、AI が生成した結果が正しいものかどうかを見極める知識や判断力を身につけなければならないと思っていますが、金沢の事例を見ても、基本的に Gemini から得た回答がそのまま使われるようなことはなく、スタッフは自分で咀嚼したうえで判断を下しています。これは、いい驚きでした。星野リゾートは、運営の現場が価値を生みだし、それが差別化や競争戦略の根幹になることを重視しています。価値を生み出すうえでは、最終的に人間の判断が鍵を握ることを、スタッフは皆しっかり認識しているのだと思います。」

企業の中には、会社の価値観や文化、熟練者が持つ「暗黙知」と呼ばれるノウハウを、すべてのスタッフが学べるように「見える化」することに取り組んでいるところもあります。しかし久本氏は、まさに生成 AI を活用することにより、「見える化」を目的とせずとも、より自由に取り出して継承していくことができるのではと考えています。

「情報整理ツールの NotebookLM を使えば、会社の情報やこれまでの経営判断の記録は、共有知識として、必要なときにすぐに引き出せる形になります。これに加えて、Gemini で会社の価値観を踏まえた意思決定の壁打ちをすれば、誰もがすぐに有益な判断を下すことができます 。新たな技術開発によって、そうした仕組みが揃ってきていることは、とても大きなメリットになると思っています」

生成 AIを活用し、 会社が培ってきた知識や経験を次世代にスムーズに引き継げる仕組み作りは、人材育成の面でも大いに役立つことが期待されます。しかし久本氏が最後に強調したのは、やはりスタッフ全員が多様性や判断スキルを発揮し、星野リゾートの魅力と競争力を、独自の方法で高めていく試みの大切さでした。

「基礎的なスキルは必要ですが、むしろ個々人が多様であることを競争力向上の軸にしたいと思っています。今後 AI の技術がさらに普及すれば、各社がますます似たようなフローで判断を行うことになるでしょう。しかし AI の提案を鵜呑みにするのではなく、サービスチームのメンバーが自分でしっかり判断できるスキルを持っていれば、他社に真似のできない体験をお客様に提供することが可能になります。自らの関心領域や思考の幅を広げつつ、AI を有効活用するスキルを高めるためにも、Google のテクノロジーを活用していけたら素敵だと思っています。」​​


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星野リゾート​​
1914 年、長野県軽井沢に「星野温泉旅館」を開業。現在は、独創的なテーマが紡ぐ圧倒的非日常「星のや」、ご当地の魅力を発信する温泉旅館「界」、想像を超える体験が溢れるリゾートホテル「リゾナーレ」、テンションあがる「街ナカ」ホテル「OMO(おも)」、みんなでルーズに過ごすホテル「BEB(ベブ)」、心揺さぶる山ホテル「LUCY(ルーシー)」の 6 ブランドを中心に​​国内・海外合わせて 73 施設(2025 年 9 月 1 日時点)を運営している​​。2000 年代初頭から IT 化に注力し、2014 年には G Suite(現 Google Workspace)を採用。宿泊予約と施設運営が統合されたホテルシステムの自社開発や堅牢なセキュリティ、全社員の IT スキルアップなどの IT 戦略に取り組んでいる。

インタビュイー
・星野リゾート 情報システムグループ グループディレクター 久本 英司 氏(写真左、右)
・星野リゾート 情報システムグループ ITサービスマネジメントユニット
 ユニットディレクター 佐藤 拓也氏(写真左、左)
・OMO5金沢片町 by 星野リゾート 広報 堀 安優美 氏(写真右)


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