LIXIL: AppSheet による「開発の民主化」で社員のデジタル人材化を推進し、現場の課題を自ら解決できる体制作りを実現

Google Cloud Japan Team
住宅設備・建材をグローバルに展開するメーカーとして著名な株式会社 LIXIL(以下、LIXIL)では、DX に向けた取り組みのひとつとして非エンジニア層の従業員たちが、自ら必要なアプリを作り出す「開発の民主化」を推進中。そのための開発環境として Google Cloud のノーコード プラットフォーム AppSheet を活用しています。ここでは AppSheet 導入の中核メンバーである同社 Digital 部門のお 2 人に導入の経緯と成果について伺います。
利用しているサービス:
Google Workspace, AppSheet など

AppSheet で全社員をデジタル人材化
LIXIL の情報システム部門に相当する Digital 部門では、従業員だけで約 500 名、外部パートナーも含めると 1,000 名を超える人員が、日々、業務システムの開発・運用を行っています。そうした中、近年は合併前に作られた各社システムの統合や、今後のビジネスも見据えた新環境へのマイグレーションに追われ、現場それぞれが今、直面している課題に対応しきれていない面も見られました。同社 Digital 部門 Global Platform Shared Platform リーダーの三浦 葵氏は、AppSheet 導入前の状況を振り返ります。


「この課題を突破する方法として、Digital 部門の人員を増やすやり方ももちろんあったと思います。しかし、ちょうどその頃、大規模アプリをローコード開発するというプロジェクトが成功し、弊社 CEO の瀬戸 欣哉からもっと大規模に進めるべきではないかというアドバイスを受けていました。つまり、全社員をデジタル人材化するというアプローチです。とは言え、ローコード開発を全社員にスケールするのは現実的ではありませんので、より間口の広いノーコード開発を試してみようということになりました。」
LIXIL ではそれ以前から全社データ基板に BigQuery を活用するなど、さまざまな領域で Google Cloud を積極的に活用していました。そのため、ノーコード プラットフォームについても AppSheet がもっとも親和性が高いと判断。まずは、Digital 部門内の事務スタッフに試してもらい、本当に誰でもアプリ開発を行えるのかを確認するところから始めました。
「取り組みをスタートした 2021 年春ごろはまだ参考になる教材がほとんどなく、AppSheet も英語ベースだったため、正直なところ、かなり不安がありました。ところがわずか 1 週間ほどで、AppSheet を利用して部内の承認申請を自動化するアプリができ上がってきたのです。アプリ開発を行ったのは Digital 部門所属の経理担当で、この種の開発経験はまったくないスタッフでしたから、本当に驚かされました。」(三浦氏)
大きな手応えを感じた三浦氏ら Global Shared Platform メンバーは、徐々に取り組みを社内に広げていきます。
「次に、より多くの利用者を想定したアプリとして、2021 年 6 月に実施された新型コロナワクチン職域接種の予約アプリを開発しました。部署の枠を超えて提供・利用される中でさまざまなフィードバックを得ることで、アプリ開発時の課題点を洗い出していきました。さらに、アプリ開発に積極的に協力してくれる社内有志、約 250 名を募り『チャンピオン』と名付けて、開発やテストを継続。チャンピオンたちには、現場への普及の中心的役割も担ってもらいました。また、役員全員にも夏休みの宿題と称して、実際に AppSheet でアプリ開発を自分で行っていただきました。組織のトップがノーコード開発の実現性と有用性を実感したことで、その後の全社展開と環境作りもとてもスムーズに進んだと感じています。同年 10 月には国内グループ企業に向けて AppSheet を一斉解放、本格的な AppSheet 活用をスタートさせました。」
のびのび開発できる環境とガバナンスを両立
アプリ開発に深い知見のない社員でも、自在に必要とするアプリを作れることはノーコード開発の大きなメリットです。しかし、そのメリットを最大限に享受するにはいくつかのことに気を配らなければならないと三浦氏、そして Digital 部門 Global Platform Shared Platform で AppSheet の社内展開を担当する稲木 柚香氏は揃って強調します。
「本格展開前のトライアルで改めて強く認識したのが、ガバナンスの重要性です。わずか 250 名の利用時でも、あっと言う間に 500 以上のアプリが開発されていたので、全従業員への解放後はこれが数千、数万になることが容易に予想されました。当然、その中には個人情報、機密情報の取り扱いに課題があるものや、セキュリティ リスクがあるものも存在するでしょう。」(三浦氏)
「そこで全社展開に先駆け、AppSheet の機能を部内でひととおり精査し、複雑な機能についてはあらかじめ使えないようにしました。 AppSheet の可能性を制限してしまうことにもなりますが、むしろ安全な機能しか使えない状態にしたことが利用者の安心感につながり、皆がのびのびと開発できるようになったのではないかと感じています。」(稲木氏)
そのうえで、アプリ開発それ自体には一切の制限を設けず、自由に開発できる環境を担保。一方で、完成したアプリを正式に社内で活用したい場合は、Digital 部門 への申請を必須とし、審査を経て合格した「オフィシャル アプリ」だけを本番環境に投入できるという運用を徹底しました。開発の勢いをそぐことなく、安全性を確保することにも成功しています。
「さらにもうひとつ、AppSheet のような開発では、今は問題がなくても、将来的に開発したメンバーが異動・退職するなどしてブラック ボックス化してしまうのを防ぐ仕組み作りも重要だと考えました。そこで 1 年に 1 度、『棚卸し』を実施し、利用実態のないアプリについては容赦なく削除することにしています。2024 年の棚卸しでは、約 10% のアプリを削除しました。」(三浦氏)
わずか 3 か月で 1 万点を超えるアプリを開発、今後は世界展開も
2021 年 10 月の AppSheet 本格展開からおよそ 3 年半、LIXIL の AppSheet 活用は順調に拡大。開発者数もアプリ数も伸び続ける中、三浦氏はスピード感やイマジネーションを失わせない管理が大事だと語ります。
「国内全社に展開後、わずか 3 か月でアプリ数が 1 万点、うち、オフィシャル アプリが 3,000 点を超えたときは、うれしく思う反面、これを管理しきれるのか不安にもなりましたが、本番運用するアプリをしっかりマネジメントすることにフォーカスし、あとは自由にさせようと割り切りました。またオフィシャル アプリについて、各工場から似たようなものが上がってくることがあるのですが、それを統合するということもあえて行っていません。一見、同じ目的のアプリでも、工場ごとに細かな要件や UI が異なっているのにはそれなりの理由があるからです。私たちが調整をし始め、肝心の開発スピードや現場のイマジネーションが阻害されてしまうことのほうが良くないと考えました。ただし、バックエンドで利用するデータモデルについては共通化しておいたほうが良いので、その点だけは調整するようにしています。」
AppSheet は 2022 年 4 月に国内向けの製造を担当する海外工場にも拡大。 2024 年 4 月にはグローバル展開に向けた取り組みも始まりました。日本以外のアジア、ヨーロッパ、アメリカの各リージョンの起点となる国での展開を 2025 年 3 月中に完了させる見込みです。
AppSheet が広く社内に浸透しつつある状況を受け、稲木氏は、現場の意識の変化も感じています。


「最近は現場の人たちから、もっと高度なことをやらせてほしい、といった声をよく聞くようになりました。AppSheet がアップデートされて Looker Studio や Google フォームとの連携機能が強化されると、私たち Digital 部門がその内容を把握するよりも早く活用し始める熱心な人もたくさんいます。現場の課題をもっともよく把握している現場のユーザー自身が、AppSheet の機能を使いこなし、自走して自分たちのリアルな要望を実現しつつある様子は、当初期待した以上の成果で、驚いてもいます。」
「社内にデジタル人材、特にアプリ開発人材を生み出すという当初の目的については想定以上にうまくいっている」と語る三浦氏。最後に「生成 AI」にも触れ、最新技術の活用と Google Cloud への期待を語ってくれました。
「私たち LIXIL はあくまで事業会社であり、 IT のプロフェッショナル集団というわけではありません。そんな私たちが望むのは生成 AI などの最新テクノロジーをサッと使えるようにしてくれること。生成 AI を使うためにまず学ぶ、ではなく、生成 AI を意識することなく活用できる環境を提供してもらいたいのです。デジタル技術を民主化するには、 AppSheet がそうであるように、最初のハードルが低いことが肝心です。 Google Cloud には使いやすい技術、サービスを提供し、今後さらに LIXIL のビジネスに貢献していただけることを大いに期待しています。」


株式会社LIXIL
2011 年にトステムや INAX といった、国内の主要な建材・設備機器メーカー 5 社を統合して設立。以降、GROHE、American Standard といった世界的ブランドを傘下に収め、現在は世界 150 か国以上に 5 万 3,834 名もの従業員(2024 年 3 月時点の連結従業員数)を擁するグローバル企業グループ(約 200 社の関連企業で構成)として、幅広く住環境に関連する事業を展開している。
インタビュイー(写真左から)
・Digital 部門 Global Platform Shared Platform リーダー 三浦 葵 氏
・Digital 部門 Global Platform Shared Platform 稲木 柚香 氏
その他の導入事例はこちらをご覧ください。