奈良県教育委員会: Google Workspace を活用したフルクラウド校務システムが拓く教育現場の未来

Google Cloud Japan Team
文部科学省が提唱する「次世代の校務DX」。そのモデルケースとも呼べる先進的な取り組みが、奈良県で始まっています。奈良県教育委員会は、県内の市町村を含む「奈良県域学校教育DX推進連携協議会」を組織し、次世代型校務 DX 推進システム「GG(ジージー)」を導入。その運用基盤には Google Workspace for Education Plus と Google Cloud を採用しています。なぜ、奈良県は「県域全体」でのシステム刷新に踏み切ったのか。奈良県教育委員会と、システム構築を担った Ddrive 株式会社(以下、Ddrive)のキーパーソンに、導入の背景から将来の展望までを伺いました。
利用しているサービス:
Google Workspace, Google Workspace for Education Plus, Chromebook, Google Cloud
多忙を極める教育現場と、分断されたデジタルの壁
日本の学校現場における教員の多忙さは、今や深刻な社会問題と化しています。奈良県においても、教職員の業務改善は喫緊の課題となっていました。これまで多くの学校では、成績処理や出席管理を行う「統合型校務支援システム」が導入されていましたが、セキュリティ確保のためネットワークからは分離されており、情報の共有や活用に大きな壁が生じていました。奈良県教育委員会の谷原 一弥氏は次のように説明します。


「2019 年に文部科学省が策定した『GIGAスクール構想』をきっかけに、学校には生徒 1 人に 1 台の学習用端末が整備され、教室に Wi-Fi が飛び、先生方はインターネット環境に接続された Google Workspace を使って授業ができるようになりました。しかし、従来の統合型校務支援システムは、ネットワーク分離を前提としたセキュリティで運用されていたため、校務をするためには職員室に戻り、わざわざネットにつながらない専用端末を使わなければなりませんでした。この結果、デジタル化が進んだ教室での授業と、旧来のシステムが残る職員室での校務との間で分断が生まれていたのです。」
この分断により、教職員は同じ情報をそれぞれのシステムに二重入力しなければならないなど、無駄な作業を強いられていました。また、データの属人化も招いていました。授業に使用する教材データは特定の端末にのみ保存され、教員は異動のたびに必要な教材データを USB メモリに入れて持ち歩くことが常態化。谷原氏は「デジタル化が進んできたようでいて、データが特定の個人や場所に縛られており、本当の意味での共有や有効活用にはまだ遠い状態だった」と振り返ります。
奈良県教育委員会の鹿島慎一氏は、地域間の「教育環境格差」の問題についても言及します。


「奈良県には 39 の市町村がありますが、大阪のベッドタウンとして発展する北部の都市部と、南部の山間部では、予算も人員体制も異なります。小規模な町村が独自に高度なセキュリティ対策やクラウド システムの導入を行うには限界があり、意欲があっても環境整備はなかなか進められない。その結果、地域間の教育環境に大きな格差が生まれていたことも、看過できなくなっていました。」
次世代型校務 DX 推進システムで、自治体の枠を超えた一元管理を実現
これらの課題解決のために奈良県が目指したのは、県内どこへ行っても先生方が同じ環境で仕事ができ、子供たちが同じ環境で学べる共通基盤の構築です。県域全体でひとつのシステムを共同利用すれば、スケールメリットによりコストを抑えつつ、小さな町村の学校でも最先端の環境を手にすることができます。教育現場において、県が主体で進める「県域全体でシステム標準化」は、全国的にも極めて稀で先進的なアプローチです。「財政力や地域の差が、教育の質の差になってはいけない」(鹿島氏)という教育委員会の強い思いも受けて、2025 年、「県」主導による前例のない挑戦がスタートしました。
この構想を実現するため選ばれたのが、Ddrive株式会社が開発した次世代型校務 DX 推進システム「GG」です。GG は、校務支援システムと汎用クラウドツールを一体的に運用し、「教師の働き方改革」と「データに基づいた個別最適な学び」という教育界の二大課題を同時に解決する基盤として開発されました。これを今回、学校や市町村の枠を超えた共通基盤として機能させます。谷原氏は選定の理由を次のように語ります。
「コロナ禍を機に、奈良県はいち早く県域全体で Google Workspace for Education のアカウントを配付し、Chromebook の導入も進めてきました。先生方はすでに授業で Google Workspace を使いこなしています。ならば、校務も同じインターフェースの中でシームレスに行えるようにすべきだと考えました。GG は、Google Cloud 上に構築され、Google Workspace とも連携し、教職員・生徒たちのアカウントは一元管理されます。Google Cloud の認証基盤を活用すれば、授業で使用する Chromebook を使って『いつでも、どこでも、セキュアに』校務ができます。このゼロトラスト環境と柔軟な働き方が両立できることは、GG 採用の大きな決め手となりました。」
しかし、現場の反応は必ずしもポジティブなものだけではありませんでした。従来の業務環境に慣れ親しんだ学校現場からは、使い慣れたソフトが使えなくなることへの不安や、クラウド移行への戸惑い、データの安全に対する疑問の声も上がりました。県協議会では、これらの疑念に対し、すべてを一気に変えるのではなく、業務のあり方そのものをクラウド時代に合わせて最適化していく必要性を丁寧に議論を重ねました。他自治体の参考事例を共有する勉強会を開くなど、現場の不安を一つひとつ解消していくためのコミュニケーションを重ねることで、徐々に理解を得ていったのです。
さらに、今回のプロジェクトで難題となったのが、既存システムからの「データ移行」です。新しいシステム上でも、過去の成績や保健データなどを継続させることは不可欠ですが、従来の校務支援システムは、外部へのデータ移行を想定していない構造でした。
「従来の校務支援システムから抽出されたデータを、正しく個人と紐づけながら、新しい GG のデータベースに流し込む作業には、大きな困難が伴うことが予測されました。この事実に苦慮していたところ、Ddrive 社が、旧データの ID と 新 GG の Google アカウントを照合するための『ID 突合ツール』を独自に開発してくれたのです。現場の負担を最小限に抑えるための、この伴走型のサポートがなければ、今回の移行は無事に完了できなかったかもしれません。」(鹿島氏)
システム構築を担当した Ddrive の村上有弘氏は、このプロジェクトの意義をこう捉えています。


「これは私たち Ddrive にとっても挑戦的なプロジェクトです。データの二重入力やファイルの散在など、先生方の無駄な作業負荷を徹底的に排除するために技術的にできることを真摯に追求しました。アカウントの一元管理は、実際には「分散管理」の構造をとることで、アカウント配付後は各市町村が自律的に管理・運用できるよう、現状の組織体制にも配慮しました。私たちの技術力で、先生方が本来向き合うべき『子供たちの成長』に集中できる環境を提供できることに、深い意義を感じています。」
奈良県が切り拓く、教育 DX の未来
現在、奈良県ではほぼ全ての学校で、Google Workspace および GG の導入が進んでいます。鹿島氏はその成果に確実な手応えを感じています。
「最も大きな成果は、やはり、県域全体での業務の標準化が実現したことです。教員が県内の別の市町村へ異動しても、同じアカウント、同じメールアドレス、同じシステム環境ですぐに仕事を始められます。教育現場の環境の『平準化』がもたらす安心感と効率性は計り知れません。」
もう一つの大きな変化は、県と市町村、学校がクラウドで直結されたことで、情報伝達のスピードも大きく向上したことです。例えば、教育現場で定期的に実施される子供への各種調査業務は、以前は紙ベースで、数段階の承認を経て実施されていましたが、今では Google フォームを使って瞬時に集計までが完了します。この「時間」の創出こそが、教職員の働き方改革の第一歩となります。
Ddrive の古田 裕子氏は、学校、そして行政の経験から、GG の導入が子供自身にもたらすメリットについても熱い期待を寄せています。


「GG によって、これまで埋もれていた校務データがクラウド上で可視化されます。子供たち自身も、小学校・中学校・高校と進学しても、自身のアカウントに紐づいて蓄積された学習履歴を容易に振り返ることができるようになります。今後、学習アプリなどとも連携させることで、学習の履歴を単なる記録ではなく、子供自身の次の成長を促す『生きた教材』として、より積極的に活用していくこともできると考えています。」
奈良県教育委員会の挑戦は、校務システムの刷新に留まらず、現在では、Gemini 等の生成 AI を活用した教員業務支援機能の開発が進行中です。試験問題の作成補助や通知表の所見案の生成など、AI が先生の「有能な助手」となる未来はすぐそこまで来ています。
最後に、谷原氏はこの取り組みの先にある想いを語ってくれました。
「先生は、辛いだけの仕事ではありません。データに裏付けされた最先端の働き方を取り入れることで、学校の先生という職業が本来持つキラキラした魅力に、もっと光を当てていきたい。先生が笑顔になれば、子供たちの笑顔も必ず広がります。この『奈良モデル』が、日本の教育 DX のスタンダードとなり、全国の教育現場を勇気づけるきっかけになることを、心から願っています。」


奈良県教育委員会
古代日本の政治・文化の中心地として栄え、法隆寺や東大寺など 3 つの世界遺産を有する「歴史と文化の宝庫」、奈良県。奈良県教育委員会では、こうした豊かな文化的土壌を活かし、地域と共にある学校づくりを推進している。現在、学校・家庭・地域が連携した教育力の向上や、教職員が子供たちと十分に向き合える環境づくりに注力し、知・徳・体の調和のとれた、たくましく生きる子供たちの育成を目指している。
Ddrive株式会社
(Google Cloud パートナー)
「テクノロジーで学びを変え、共に未来を切り拓く」をミッションに掲げる、Google for Education 専門のクラウド インテグレーター。社名の由来である「データ駆動型(Data-Driven)」教育の実現を目指し、自らもフルリモート・フルクラウドで活動するクラウド ネイティブ企業である。 主な製品として、Google Cloud 上で稼働する次世代型校務 DX 推進システム「GG」を開発。「GG」は Google Workspace とシームレスに連携し、場所を選ばない「ゼロトラスト」環境と校務データの統合を実現することで、教職員の働き方改革と個別最適な学びの基盤構築を支援している。
インタビュイー
奈良県教育委員会
・鹿島 慎一 氏(写真中央)
・谷原 一弥 氏(写真左)
Ddrive株式会社
・村上 有弘 氏
・古田 裕子 氏(写真右)
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